ポルフィリン症の話

【監修】島根県済生会江津総合病院

名誉院長 堀江 裕 先生(さくら友の会協力医(顧問))

助言 上出 良一先生 足立 智英**先生


*  ひふのクリニック人形町 院長(さくら友の会協力医(顧問))

** 東京都済生会中央病院 総合診療内科・脳神経内科担当部長(さくら友の会協力医(顧問))


ポルフィリン症は難病法に定められている指定難病です(平成27年7月1日 指定番号254)

はじめに

  • 呼吸で取り入られた酸素は血液のヘモグロビンよって体の隅々に運ばれます。
    ヘモグロビンは「ヘム」と「グロビン」が結合したものです。そのヘムは8個の酵素が順次作用して作られていきますが、先天的にいずれかの酵素の働きが悪いとその過程までに作られていた物質が体内に溜まり、後天的な誘因によってさらに溜まってしまい様々な症状がでる場合があります。これを「ポルフィリン症」といいます。ヘムは食事などで補うことはできませんから、患者さんは生涯「ポルフィリン症」と付き合っていかなければなりません。

  • ポルフィリン症の根治療法はありません。

  • ポルフィリン症は、ヘムが作られていく過程において活性が低下している酵素の種類によって9病型に分類され、臨床症状によって急性ポルフィリン症と皮膚型ポルフィリン症の2つに分類されています。

急性ポルフィリン症

  • 急性ポルフィリン症は、表1のように4病型に分類されています(ADPは日本では1例が報告されていますが、ポルフィリン体の詳細が不明なため指定難病から外されています)。

表1.急性ポルフィリン症 1)

急性ポルフィリン症型(略称)主な症状
ALAD欠損性ポルフィリン症(ADP)消化器、精神症状皮膚症状はない
急性間欠性ポルフィリン症(AIP)消化器精神症状皮膚症状はない
遺伝性コプロポルフィリン症(HCP)消化器精神症状皮膚症状
異型(多様性)ポルフィリン症(VP)消化器精神症状膚症状

  • 主なもの症状として①腹痛(疼痛)、嘔吐、便秘などの腹部症状のほか、②手足のしびれや痛み、痙攣や四肢麻痺などの末梢・中枢神経症状、③高血圧や頻脈、多汗などの自律神経症状、④不安、うつ、不眠、幻覚などの精神症状を呈します。症状が多彩でそれぞれが非特異的なことから、イレウス、虫垂炎、急性膵炎などと誤診されることが多く、これらの約1/4では誤って開腹手術を受けている、といわれています。神経症状が進んで死亡することもあります。

患者尿 (AIP)対象尿 (健康成人)

患者尿(AIP)

対象尿(健康成人)

図1.AIP患者の尿(文献1の図3から転記)

  • これ以外にも様々な症状がでてくるため「不定愁訴」と扱われ精神科扱いにされた例もあります。

  • 畜尿していると、褐色尿に変色し(図11))確定診断に至った例もあります。

  • 後天的な誘因は薬剤(鎮痛剤として一般的に処方されているブスコパン、ボルタレン、吐気止めのプリンペラン、避妊薬としてのホルモン剤など多数の薬剤)、ホルモンバランスの変化(生理・妊娠・出産)、肉体的疲労、精神的ストレス、アルコールなどですが誘因が特定されない場合が多くあります。これら発症誘因は増悪要因ともなり、特に薬剤はフェノバルビタール、ヒダントインなどの絶対的禁忌なものから、症例によって安全とも禁忌とも報告されているものまで複雑であり、日常診療に際しては十分な注意が必要です。

  • 急性発作の多くは思春期、特に20歳代に発症し、思春期前および閉経後にみられることは極めてまれで、発症は20~40歳代の女性に多いのは性ホルモンの関与が推定されています。

  • 神経症状はたいていの運動障害があり、初期の段階では腕、特に近位筋より始まり、筋力低下は進行性であり、やがて四肢麻痺へと進行し、腱反射消失および運動麻痺が生じ、更に10~20%の症例では球麻痺、呼吸筋麻痺により死に至る場合があります。

  • また、経過中に電解質異常をきたし低ナトリウム血症を起こし、重症例では痙攣を起こすことがありますので、排尿(乏尿)、点滴など電解質のバランスには注意が必要です。なお、低ナトリウム血症による痙攣では電解質補正に加えてジアゼパムを使用しますが、ジアゼパムは誘発剤の扱いなので緊急もしくは危険を上回る効果がある場合に限られています。このため、急性ポルフィリン症の急性期治療では痙攣のコントロールに最も難渋します。

  • 遺伝性コプロポルフィリン症(HCP)と異型(多様性)ポルフィリン症(VP)は、これらの急性症状に加えて、太陽光線による皮膚型ポルフィリン症と同じ様な皮膚症状が出現します。

皮膚型ポルフィリン症

  • 皮膚型ポルフィリン症は、表2のように5病型に分類され、生涯遮光対策が必要です。

表2.皮膚型ポルフィリン症 1)

皮膚型ポルフィリン症型(略称)
主な症状
晩発性皮膚ポルフィリン症(PCT)
皮膚症状肝障害ともに強い
肝性骨髄性ポルフィリン症(HEP)
皮膚症状強い肝障害
先天性骨髄性ポルフィリン症(CEP)
皮膚症状赤色尿赤色歯牙高度肝障害
赤芽球性(骨髄性)プロトポルフィリン症(EPP)
皮膚症状、肝障害
✕連鎖優性プロトポルフィリン症(XLDP)
皮膚症状、肝障害

おむつがピンク色に染まる病型:先天性骨髄性ポルフィリン症(CEP)

図2

図2色歯牙(2歳・男児)文献2口絵18から転記

  • おむつが尿によってピンク色に染まり、あるいは乳歯に暗室でウッド灯(400㎚付近の長波長紫外線が照射されるランプ)を照射すると、鮮明な赤色蛍光がみられる(図22)病型があります。先天性骨髄性ポルフィリン症(CEP)です。

  • CEPの皮膚症状は、生後すぐに光線暴露後に光線性皮膚炎を生じ、水疱を形成します。水疱はびらんとなり、治癒後に著しい瘢痕と線維化をきたし、露光部の皮膚脆弱性もみられます。軽微な外傷で容易にびらんを生じますので外傷には十分注意が必要です。こうした症状を繰り返すと、手指、鼻尖、耳介あるいは眼瞼の離断ないし欠損を生じます。また、高度肝障害を生じますので肝機能の管理が大切です。

学童期によく皮膚症状がみられる病型:赤芽球性(骨髄性)プロトポルフィリン症(EPP)

図3

図3(文献図6から転記)

旅行中大量の日光暴露により、灼熱感を伴った露出部の浮腫性紅斑、水疱、壊死性痂疲を生じた、肝障害を伴う、文献3の図6から転記

●運動会、水泳、遠足、サッカーなどの屋外運動で日光暴露後、顔面や四肢など肌を露出している部分にかゆみやチクチクする痛みからはじまって、褐色の色素沈着、水疱、紅斑などがみられるようになります(図33))。成人以降にも同様な皮膚症状が出現します。誘因は太陽光線(紫外線・可視光線)への暴露です。

●赤芽球性(骨髄性)プロトポルフィリン症患者(EPP)の10~20%に肝障害がみられます。肝障害が悪化した場合には、肝移植が行われていますがドナーがみつからないため死亡した例もあります。

長年、大量のお酒を飲まれた方にみられる晩発性ポルフィリン症(PCT)

  • 晩発性ポルフィリン症(PCT)の多くは、長年にわたって大量のお酒(アルコール)を飲んだ方の中・高年者にみられる病型ですが、まれにエストロゲンを服用していた女性にみられることがあります。

  • PCTは、散発性(非遺伝性)が多くポルフィリン症患者の中でも最も多くみられる病型です。

患者数

日本でのポルフィリン症患者の人数は正確には分かりませんが、厚生労働省が公表している難病法に定める医療費助成を受けている患者数を年度別に表3に、指定難病に指定された平成27年末から令和3年度末現在に医療費助成を受けた者の合計を図4にまとめました。指定難病に指定された以降、年々医療費助成を受ける患者が増えています。

表3.ポルフィリン症患者の難病法に定める医療費助成受給者数の推移

表3

出典:政府統計の総合窓口.衛生行政報告例

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450027&tstat=000001031469


図4. 指定難病に定める医療費助成受給者数(平成27年度末~令和3年度末までの合計)

図4
おわりに

2009年の1年間に医療機関を受診したポルフィリン症の推定患者数は約208人(急性ポルフィリン症:約35人、皮膚型ポルフィリン症:173と報告4)されており、また、ポルフィリン症患者は10万人に1人5)といわれていますが、実態を把握できていません。

難病法に基づき医療費助成患者が増えているのは、医療従事者や一般の方にもポルフィリン症が周知されてきているのも一因と思われます。しかし、医療費助成患者数が増えているのは、遮光対策に理解が進まず重症化した皮膚型ポルフィリン症患者や、急性ポルフィリン症患者の一部の方が急性期に適切な医療処置を得らず慢性化したのではないかとも考えれられます。

近年、肝臓でのヘム合成経路の最初のステップである5’-アミノレブリン酸合成酵素1(ALAS1)遺伝子のmRNAを標的として急性ポルフィリン症の症状を引き起こしているδ-アミノレブリン酸(ALA)やポルフォビリノーゲン(PBG)の濃度を低下させ、急性ポルフィリン症の急性発作の再発を予防したり、症状を緩和させる治療薬が開発され6)、臨床で使用されています5)

また、米国で赤芽球性プロトポルフィリン症の患者に対して、メラニンを増やして皮膚の色を黒くすることで光線過敏症状を緩和する薬として、これまでの皮下に埋め込む薬に加え内服薬も開発中です7)

これらの薬剤がポルフィリン症患者の症状を緩和・緩解し、あるいは予防して明るい今日・明日を迎え、安心して暮らせる日が一日も早く訪れる日が来ることを切に望みます。

文献

№1.堀江裕:急性肝性ポルフィリン症の病態と診断・治療の最新知見 ―ありふれた症状に潜む希少疾患の徴候―PROGRESS IN MEDICINE.Vol41№9Prog.Med.2021-9. 8596

№2.三浦隆:皮膚型ポルフィリン症の臨床.ポルフィリン・ヘムの生命科学 東京化学同人・1995年5月10日

№3.上出良一:光線過敏症.日本医事新報.2,001年(平成13年)7月7日.№4028

№4.川田 暁:遺伝性ポルフィリン症に関する全国疫学調査(第1報).厚生科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)、「遺伝性ポルフィリン症の全国疫学調査ならびに診断・治療の開発に関する研究」平成21年度総括・分担研究報告書P21~22

№5.堀江 裕 遺伝性ポルフィリン症の 全国での診断治療体制の確立の研究. 厚生科学研究費
補助金 難治性疾患克服研究事業 「遺伝性ポルフィリン症 :新病型の診断法と新しい診療ガイドラインの確立に関する研究」平成25年度総括・分担研究報告書 P29

№6.ギボシランナトリウム.薬品インタビューフォーム2022年1月改訂(第3版 Alnylam Japan株)

№7.上出良一先生からの情報、経口薬dersimelagon、2023年4月26日